
幸村 「こんにちは」

ジミー
「ギョッ」幸村 「今日はいいお天気ですね! あなたも鹿狩りですか?」
ジミー 「は?」
幸村 「それともキジ撃ちかしら。 まったく、秋は山の幸に脂が乗って、
いちばん美味しい季節ですからね!」
ジミー 「・・・・・・」
幸村 「ところで、ちょっとお尋ねしますけれど。 ここいらに、
なめ場は
ありませんか?」
ジミー
「は?」
幸村 「
鹿のなめ場ですよ。あいつらは塩気のある地面の土を
舐めるのが好きでしょう。僕の経験上、鹿狩りは、
なめ場で待ち伏せするのが
一番です。ぼくのお父さんもそう言ってました」
ジミー 「・・・ちょっと待て。お前、リスだよな」

幸村 「その答えなら、もちろんイェスですが、何か?」
ジミー 「リスが、鹿を狩るわけ?」
幸村 「しかし、こんな山奥で、まさか他の人に会うとは思わなかったなぁ」
ジミー
「急に話変えんなよ」幸村 「本当は友人も誘ったのですが、彼はまったくの夜型なもので」
ジミー 「・・・鹿を狩るリスとか、夜型のリスとか、ワケわかんねぇな!」
幸村 「いえ、彼はリスではありませんよ! そういえば、ちょうどあなたと
同じくらいの年頃かしら。失礼ですけど、おいくつですか?」
ジミー 「知らね」
幸村 「おや。すみません、・・・ひょっとして、あなたもお人形なのですか?」
ジミー 「だったらなんだよ」
幸村 「これは失敬! ぼくはどうも、お人形とそうでない人の見分けが苦手で。
ぼくの友人もお人形です。でも、あなたは昼間に山登りをするくらいだから、彼と
違って、だいぶ活動的ですね!」

ジミー 「・・・活動的というか」
幸村 「ええ」
ジミー 「俺はただ、うるせーのやウザいのを置いて、一人野外でたそがれようと
思ってただけなんだが」
幸村 「ほぅ」
ジミー 「なのに、いきなりカラダが大きくなるわ、ものすげー顔したリスが話しかけて
くるわ、一体これは・・・って、お前人の話ぜんぜん聞いてねぇな」
幸村 「失礼! これはあなたのバイセコー?」

幸村 「輝くスポークとリム。それに鉄のハンドル! 素晴らしい。こんなバイセコーが
あれば、お人形の脚でも、ずっと遠くまで行けますね? これは是非、出不精な
ぼくの友人にも薦めなくては。いったいどこで手に入るんです?」
ジミー 「・・・わからん」
幸村 「?」
ジミー 「なんかわからんが、それはあったんだ、そこに。たぶん俺のなんだろうけど、」
幸村 「たぶん、とは?」
ジミー 「よくわからん。 気がついたら俺は今の俺になってて。自転車もここに
あったんだ」
幸村 「ええ!」
ジミー 「さっきまで、俺はもっとずっと小さくて、・・・なんつーか、小さなコドモ
みたいな姿だった気がするんだが」
幸村 「・・・それは不思議だ!」
ジミー 「だろ」
幸村 「でも、僕の目の前にいるあなたは、なんていうか、とても自然ですよ。
あなたの話し方は全然子どものようではないし、そのお洋服も似合っているし」

ジミー 「そうか?」
幸村 「ええ。それにその巻き毛! そのぐちゃぐちゃでグルグルの髪はとても
個性的です。見立て次第でコンプレックスではなく、チャームポイントになるかも」
ジミー 「とうに克服したコンプレックスを刺激すんじゃねぇ」
幸村 「・・・?」

幸村 「でも あなたはいいですね。お人形で」
ジミー 「ん?」
幸村 「ぼくは見ての通り普通のリスですし、そのことを誇りに思ってはいますけど」
ジミー 「普通・・・?」
幸村 「いえね、時々、もしぼくも人形だったら、と、思うことがあるんです。
というのも、ぼくの友人は、すごく人形を欲しがっているから。
・・・それも、あなたのように服を着て、自分の言葉で喋るお人形を」
ジミー 「へぇ。そりゃまたなんで?」
幸村 「たぶん、寂しいからじゃないでしょうか」
ジミー 「・・・む」
幸村 「ぼくが思うに、彼はきっと、移りゆく季節や時間のことなど気にしないで、
ただ毎日を一緒にのんびり過ごせる相手が欲しいんじゃないかしら」
ジミー 「・・・つまんねーだろ、そんなの」

幸村 「そうでしょうか?」
ジミー 「毎日、来る日も来る日も何も変わらねーでそのままなんだぞ。
毎年毎年、勝手に春が来て、夏になって、んで秋になるってのに、
ずーっと同じなんだぞ。アホみたいに」
幸村 「秋のあとには冬がきますね。・・・ホルツヘイムのリスは、クリスマスには
故郷に帰らないといけません。友人一人を残して故郷へ帰るのは、とても
気がかりです」
ジミー 「気がかることなんかねーよ。どーせ何も変わらないで、年が明けたって
桜が咲いたって、梅雨が来たって、前に会った時とほとんど同じだ」
幸村 「ええ、たぶん、彼はね。 でもぼくは、春の終わり頃には冬毛が抜け始めて、
だいぶ印象が変わると思います。今年はなぜかずっと冬毛のままでしたけど、
たぶんこの国で年を越してしまったせいかな」
ジミー 「(・・・・・・毛?)」

幸村 「来年の夏、ほっそりした夏毛のぼくを見たら、彼は置いていかれたような
気分になるかしら」

ジミー 「・・・夏毛バージョンを想像できねぇ」
幸村 「それはもう別リスですよ」
ジミー 「余計想像できねぇ」
ジミー 「・・・けど、別にいいんじゃねーの」
幸村 「?」
ジミー 「お前は普通・・・じゃねーけど、姿かたちはとりあえずリスなんだし。
・・・毛が生え変わるかどーかは疑問だが」
幸村 「そうですね。それは変えられない事実だ」
ジミー 「だろ」
幸村 「むしろ、
生き物であるぼくを通じて、彼にも移りゆく時間の
流れを感じてもらえたら。 このリスなりの友情、分かってもらえるかしら・・・!」
ジミー 「・・・」
幸村 「たとえば手始めに、季節の手料理なんかを作ってご馳走するのは?」
ジミー 「ふむ」
幸村 「彼はもっぱらジャンクフードばかりですからね。あれらときたら、いつも
同じ味つけ、同じ焼き方! 氷入りのコーラーなど、温度まで同じです。
・・・ご馳走といえば、やはり旬のもの。それもとりたての新鮮なやつが一番だ」
ジミー 「なるほど」
幸村 「というわけで、ここいらに
鹿のなめ場はありませんか?」
ジミー
「知らねーよ」
変なリスだった

そのときの会話は 思い出せば出すほど奇妙で
ここは 季節と季節どころか
何か別の世界との境界線なのではないかと

そう思ったとき 強く風が吹いて
帽子が飛んだ

そうして 次の瞬間
降り立った原っぱに かすかに香るのはキンモクセイ
スンと冷えた 甘いにおい

いま 俺は俺のまま
季節と季節の
境界線をこえる
(おしまい)
拍手&拍手のお返事をありがとうございます。
コメントのお返事は直接。